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業界の垣根を超えた交流が思いがけない化学反応を起こす

株式会社 豊和 DINING+事業部 代表 山本 美代さん

株式会社豊和・DINING+事業部 代表
愛知県名古屋市出身。食器ソムリエ / テーブルウェアスタイリスト。3Mデンタル事業部、HUGE PR、CRYSTAL LINE ウェディングコーディネーター、Y.J.INC シンガポール食器ブランドプロデューサーを経て、2017年、創業44年の店舗プロデュース会社『株式会社豊和』の一事業部として『DINING+』を立ち上げる。2020年、食器ソムリエ協会を立上げ予定。これまでの知識と経験を元にしたカリキュラムで構成した「食器ソムリエ講座」を10月に開講予定。

サスティナブルな未来を目指し、2020年5月末よりオーガニックな竹製歯ブラシブランド『MiYO-organic-』販売をスタート予定。同4月にはテイクアウト容器に特化したオンラインショップ『DIINING+ SUSTAINABLE』を立ち上げ、飲食店の環境配慮への取り組みをサポートしている。

使命感から生まれた2つの事業の中  不安と焦りから孤立

ホテルやレストランなどの店舗プロデュースと、おしぼりや割り箸などの消耗品の卸し事業を展開している『株式会社豊和』の後継者、山本美代さん。2017年に『株式会社豊和』の一事業部として『DINING+』を立ち上げましたが、当時は周りに支援してくれる人もあまりおらず、自分の課題すら見えない状況のなか飛び込んだ「家業イノベーション・ラボ」で、業界の垣根を超えた交流により、思いがけない化学反応を起こしています


『DINING+』は、食器ソムリエとして活動する山本さんがテーブルコーディネートやディスプレイを手がける他、環境に負荷をかけないエコロジカルな竹製歯ブラシを開発・販売する事業を展開しています。この2つの事業を始めたきっかけは、山本さんが抱いた”危機感“からでした。


元々、食器オタクでもあった山本さんは、良い食器を作る全国の窯元が相次いで廃業していく現状に悲しさを抱き、より多くの人たちに器の魅力を知ってもらう手段としてスタイリング事業を始めました。


そして、もう一つの竹製歯ブラシの開発・販売も、世界中で大量に廃棄されるホテルのアメニティをもっと環境に優しい物に変えられないかという、地球環境への危機感から生まれました。


“器産業”と“地球環境”。この2つを救う―――。

使命感に駆られ、大きな目標を掲げたものの、山本さんの心の中は多くの家業後継者が抱える“孤独感”が占めていました。

参加することで見えてきた“課題”  新たなつながりが発想の原動力に

「母の会社の一部として事業を起こしましたが、当時は従業員からも母からも孤立していました。今でこそ、さまざまな団体がありますが、そのころは中小企業の社長が他業種の社長と交流する機会はほとんどなく、ましてや2代目、3代目との交流も皆無でした。そうなると限られた社会の中での視野が全てになってしまって、自分の現状や立ち位置を把握することが難しくなります。それは事業を行う上で、得意・不得意や、物事が順調なのか、停滞しているのかを大きな視野で見極める、大切な作業が欠けていることになります。


当時の私は、自分の課題すら見えていませんでした。事業の行く末に不安を抱きつつも、早く結果を出さなければと気持ちばかり焦って……。そのときに同じような境遇や悩みを持つ人と話がしてみたいと思い、いろいろと調べていく中で『家業イノベーション・ラボ』に辿り着きました」

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初めて参加したプログラムは「合宿」。 そこで、山本さんは同じような環境や立場の人たちと接し、時間を共有することで、家業後継者たちによく見られる共通点に気づいたのです。


「家業を継ぐ私たちには、いくつかの“あるある”があります。参加している皆さんの状況を伺うことで、私自身に気づきが生まれました。例えば、ある課題に対し、私はこの部分は足りていないけれど、逆にみんなが悩む部分はうまくいっていると現状を把握することができました。そこで初めて自分の課題も見つかったんです。 それが何よりの収穫でした。今は、この合宿に参加してみようと思った、当時の自分を誉めてあげたいです(笑)」


最初の合宿を機に、山本さんはその後も月1度のペースでさまざまなプログラムに参加していったそう。昨年は、筑波大学と『家業イノベーション・ラボ』がコラボしたプロジェクト『家業×つくばのテックでつくる未来』や、オランダでのスタディツアーにも参加。どれも山本さんにとっては貴重な体験となり、その中で得たものは計り知れないといいます。

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「今、私はスタイリングの事業と竹製歯ブラシの事業を並行して行っていますが、参加者の皆さんの前でこの事業を発表する機会や、議論を交わす機会をたくさんいただいて、そこで課題を整理していくことは多かったですね。


『家業×つくばのテックでつくる未来』では、隣に座ったのが偶然にも『JAXA(宇宙航空研究開発機構)』の方で、竹製歯ブラシを見て『これは宇宙に持っていきたい』とおっしゃっていただいたり。スタディツアーでは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の先進国として脚光を浴びるオランダでの取り組みや、オランダ国内におけるファミリービジネス(家業)の潮流など、現地のキーパーソンらとディスカッションを交わすことで、新たな発見や知識を深めることができました。自分から見える景色とは全然違う、グローバルな視野で物事が進んでいく様を目の前で見ることができました。


この経験は中小企業の一後継者では得られません。年代も業種もさまざまな家業後継者とつながれる『家業イノベーション・ラボ』だからこそ、得ることができた貴重な機会だったと思います」

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全国の中小企業が元気になればとてつもない大きなパワーになる

山本さんには、家業後継者の一人として忘れることができない一つのセミナーがあるといいます。それは、2018年12月に開催された『株式会社星野リゾート』の代表・星野佳路氏による講演です。


「星野さんがお話された中で、私が一番グッと来た言葉があるのですが、『実は家業というのは、日本を元気にする一番の近道かもしれない』とおっしゃったんです。日本国内で大企業が占める割合は1割ほどで、残りは中小企業が占めていますが、その9割の中小企業が元気になったらすごいパワーになる―――。私の中でそのロジックがストンと落ちたんです。確かに一つひとつの規模は小さくても、それぞれが元気になれば大きなパワーになるんだと」


その言葉を胸に、目の前に立ちはだかる課題を一つひとつクリアしてきたという山本さん。とりわけ、ゼロから開発を始めた竹製歯ブラシは苦労の連続だったとか。

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当初は、放置竹林の問題解決の一つになればと、国産の竹を使うことを考えていたそうですが、未管理の竹を使ったプロダクトの製品化は難しく、断念。山本さんは、まずは竹製品のマーケットを広げていくことにシフトを切り替えました。さらに、オーガニックにもこだわり、素材となる竹の消毒は日本の特許技術である紫外線と超音波を用いた殺菌処理を施すことにしました。これで口に入れても安心安全な竹製歯ブラシとなります。そして、コストにも大きく影響されるパッケージは、割り箸を入れる袋を応用することに。パッケージの構造を簡素化することで、割り箸袋工場の通常ラインでの製造が可能となり、コストダウンにもつながったのです。


山本さんが「割り箸の袋が使えるかも!」と思った背景には、家業の存在も大きく影響しています。取引先の一つに割り箸の製造会社があり、素材から製造工程まで事細かに相談することができたのです。「それが無ければ、もっと時間もコストもかかっていたかもしれません」と話す山本さん。こうして完成した竹製歯ブラシは、2020年4月に正式発売が決まりました。

「行動してみる、挑戦してみる」
『家業イノベーション・ラボ』での活動は未来へと前進するための第一歩となった

食器ソムリエとしての事業も新たな展開を迎えています。山本さんが昨年から準備を進めてきた食器ソムリエ講座が、2020年10月から本格始動することが決まりました。山本さんは食器という非常に暗黙知だったものを体系化し、多くの人たちに器の魅力や使い方などを学んでもらう、実践的なプログラムを構築しました。

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『DINING+』を立ち上げた当初は、不安と焦りでいっぱいだった山本さんが、『家業イノベーション・ラボ』で多くの家業後継者たちと知り合ったことで、家業をアップデートするだけではなく、彼女自身も着実にステップアップすることができたのです。


「『家業イノベーション・ラボ』に参加すると必ず得られるものがありました。思いもよらなかった人との出会いもありますし、業界が異なる参加者たちと新たな取り組みも生まれる。『家業イノベーション・ラボ』はさまざまな化学反応が起きる場所ですね。


近々、新しい取り組みとして、オランダのスタディツアーもご一緒した『株式会社セブンハンドレッド』の代表・小林忠広さんが運営するゴルフ場のレストランの食器をリノベーションすることになりました。これは同社のスタッフの皆さんにも積極的に参加していただき、小林さんの『スタッフの皆さんの満足度を最も高く、彼らの思いをゴルフ場の経営に入れていく』という思いを実現するものです。私にとっては、食器ソムリエとして実践的なプログラムを活用する初めての試みとなります。このような取り組みは、『家業イノベーション・ラボ』に参加していなければ生まれなかったでしょうね」

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これまでを振り返り、山本さんは「動いたことがよかったのかな」といいます。


「会社の中で頑張ることも大事ですが、一人で考えているだけでは自分の能力しか使えません。まずは行動を起こしてみることが大事です。『家業イノベーション・ラボ』に参加し、自分の考えていることや悩んでいることをみんなに話して、それに対するフィードバックを貰う。このプロセスを繰り返すことで成果は少しずつ現れてきます。これから家業を継ごうと考えている人には、積極的に『家業イノベーション・ラボ』を活用されることをお勧めしたい。私ももっと多くの家業後継者の皆さんと交流していきたいと思っています」


家業イノベーション・ラボについて詳しくは公式ウェブサイトまたはFacebookページをご覧ください。