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インボイス制度導入でどうなる?税務調査の方針と留意すべきポイント

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この記事は6分で読めます

この記事のポイント

  1. インボイス導入後の税務調査では、「インボイスが登録した課税事業者が交付したものか」「インボイスの記載事項が必要な要件を満たしているか」等が確認される
  2. ただし、国税庁は「軽微な記載不備の確認を目的とした調査はしない」と公表
  3. 「インボイスの保存がない」「インボイスの記載事項が不足する内容を他の書類等から確認できない」場合は、原則として仕入税額控除の適用を受けられないことに留意
  4. 特に還付申告の場合は、保存しているインボイスが適正なものかを確認しておく

1 インボイス制度導入で変わる調査

インボイス制度の導入により、帳簿及びインボイスの保存が仕入税額控除の要件となりました。従来の区分記載請求書は、売手が免税事業者でも交付することができ、買手は免税事業者からの仕入れでも仕入税額控除ができましたが、今後は課税事業者から交付されたインボイスの保存が仕入税額控除の適用を左右することになります。

インボイス制度導入後の税務調査でこれまでと大きく変わるのは、インボイス発行事業者でなければインボイスを交付できないことから、まず「そのインボイスが登録した課税事業者が交付したものか」確認するという点だと考えられます。

次に、正当なインボイス発行事業者のものだとして、「インボイスの記載事項が必要な要件を満たしているかどうか」確認するという点です。

インボイス制度導入後は、売手であるインボイス発行事業者は、課税事業者である相手方に求められれば、インボイスを交付・保存する義務が課されています。これまではこのような義務は課されていませんでした。

したがって、インボイスの記載内容に疑義が生じた場合には必要に応じて反面調査を行い、売手の保存しているインボイスの記載内容を確認することになります。

インボイスに関する税務調査が今後どのような方針で行われようとしているのか、以下見ていきたいと思います

2 インボイス導入後の税務調査に関する国税庁の方針とは

インボイス導入後の税務調査については、次のような国会答弁等が行われています。

(1)税務調査の際のインボイスの扱いについて(財務大臣・国税庁次長の発言)

まずは、衆議院・財務金融委員会における、財務大臣および国税庁次長の「税務調査の際のインボイスの扱い」に関する発言の要旨を見てみます。

表1 税務調査時のインボイスの扱いに関する財務大臣・国税庁次長の発言要旨

  • 税務調査については、大口で悪質な不正計算が想定されるなど調査必要度の高い納税者を対象としているところ。これまでも、請求書等の保存書類について軽微な記載事項の不足を確認するための税務調査は実施していない。インボイス制度導入後も、こうした方針に特に変更はない。
  • 国税庁としては、インボイス制度について制度の定着を図るため、調査の過程でインボイスの記載不備を把握したとしても、インボイスだけでなく他の書類等を確認するなど柔軟に対応していく。

出典:衆議院・財務金融委員会(2023年2月10日)

(2)インボイス導入が税務調査に与える影響

次に、衆議院・財務金融委員会における、国税庁次長の「インボイス導入が税務調査に与える影響」に関する発言の要旨も見ておきましょう。

表2 インボイス導入が税務調査に与える影響に関する国税庁次長の発言要旨

  • 課税仕入れについて適正なインボイスの保存がない場合、その不足する内容を他の書類等から確認できない限り、原則として仕入税額控除の適用を受けることはできない。税務調査でも確認が必要。
  • インボイス制度開始後は、インボイス発行事業者と通謀等しない限り仕入税額控除、架空仕入れを計上することは困難になると考えられる。消費税の不正還付についても一定の抑制が働く。
  • 国税当局としても、税務調査の際に、登録されたインボイス発行事業者の情報や発行されたインボイスを通じて、消費税不正還付の解明、是正に活用することが可能となる。

出典:衆議院・財務金融委員会(2023年3月15日)

(3)「インボイス制度後の税務調査の運用について」の公表(国税庁)

これらの国会答弁を踏まえたところで、国税庁は以下の資料を公表しています。

表3 インボイス制度後の税務調査の運用について

  • これまでも、保存書類の軽微な記載不備を目的とした調査は実施していない。
    • 従来から、大口・悪質な不正計算が想定されるなど、調査必要度の高い納税者を対象に重点的に実施。
  • 仮に、調査等の過程で、インボイスの記載事項の不足等の軽微なミスを把握しても、
    • インボイスに必要な記載事項を他の書類等(※)で確認する、
    • 修正インボイスを交付することにより事業者間でその不足等を改める、
    といった対応を行う。
    ※相互に関連が明確な複数の書類を合わせて一のインボイスとすることが可能。
  • まずは制度の定着を図ることが重要であり、柔軟に対応していく。

出典: 国税庁「インボイス制度の周知広報の取組方針等について」(内閣官房HP「適格請求書等保存方式の円滑な導入等に係る関係府省庁会議(2023年8月25日)」より)を基に作成

3 インボイスの記載不備は税務調査でどう扱われるのか

「インボイスの記載不備」については、上記2の税務調査の方針を踏まえれば、税務当局は、まずはインボイス制度の円滑な定着が大事だと考えており、税務調査においてインボイスの記載事項の確認を行いますが、記載事項が足りなかった場合等の軽微なミスを把握したとしても、他の書類等で確認できれば仕入税額控除を適用し、記載不足については、今後の指導事項とするのではないかと考えられます。

しかしながら、インボイスの保存がなかったり、インボイスの記載事項が不足する内容を他の書類等から確認できない場合には、原則として仕入税額控除の適用を受けることができなくなることにも留意する必要があります。

したがって、柔軟に対応していくとはいっても、記載不足の部分については、いずれかの書類等で確認できるようにしておかなければなりません。

4 企業はどのようなことに注意すればよいのか

消費税の税務調査では、不正な還付申告を防止するため、申告書審査を的確に実施し、還付原因が解明できない場合には、重点的に調査を行うこととしています。

したがって、調査の重点は大口悪質な不正事案等への的確な対応ということになりますので、特に還付申告の場合には、保存しているインボイスが適正なものか確認しておく必要があります。

また、記載事項の不備のみを理由とした否認は行われないようですが、いずれかの書類で確認できるようにしておくとともに、指摘を受けないように、記載事項が整っているか、今一度確認しておく必要があるでしょう。

この記事に記載されている法令や制度などは2024年5月時点のものです。 法令・通達等の公表により、将来的には制度の内容が変更となる場合がありますのでご注意ください。

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【著者】

松崎 啓介(まつざき けいすけ)

松崎啓介税理士事務所 税理士


昭和59年~平成20年 財務省主税局勤務 税法の企画立案に従事

(平成10年~平成20年 電帳法・通則法規等担当)

その後、大月税務署長、東京国税局 調査部特官・統括官、審理官、企画課長、審理課長、個人課税課長、国税庁監督評価官室長、仙台国税局総務部長、金沢国税局長を経て税理士登録。

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